言葉なき政治の貧困
新潮45 2009 5 (株)新潮社 編集兼発行者 宮本太一
言葉なき政治の貧困 内田樹 神戸女学院大学教授
日本の政界に漂う奇怪な症候群、その耐えられない軽さをもたらしているものは?
オバマの手際
第一印象は、とても「風通しが良い」、話が大ぶりで「ざっくり」とし
た感じ。アメリカという国が向かうべき方向を指し示し、おおまかな国家ビジョンを提示し、それへの支持を訴えるというものでした。
アメリカにはその国の歴史的使命はなにかということについて「原点」における契約書が存在する(と言われている)
覇権国家の秘密
この原点の「契約書」があることがアメリカが世界に冠絶する覇権国家たりえた秘密ではないかと私は思っている。
アメリカの「設計図神話」
システム不調を「最初の設計図通りに作り直す」というかたちで処理する..
「後手」に回る日本
日本が近代以降もちえた唯一の国家像は「国体」というものです。後にも先にも実効的な統治原理として機能したものはそれしかありません。「国体」がなにを意味すのか、それが暴露されたのは、ポツダム宣言の受託のときです。戦後に「国体」に代わる統治原理が登場したわけではありません。私たちの国の統治原理は今のところ実践的には「アメリカに従属する」ということであり、それは比較的うまく言っています。でも、その政治実践を正体する国家理論があってそうしているわけではない。
蔓延する「最適解のマインド」
まず「問題」が出る。その問題に対してどう解答するかを必至で考える。
日本政治の「風土病」
麻生首相の言葉を見ると、言い逃れ、言いごまかし、とらてたら揚げ足を返すといった「小技」達人である。彼には実現すべき政治的ビジョンがあって、それを情理を尽くして有権者に伝え、その同意と支持をとりつけるといる発想が無い。「百年に一度の経済恐慌に対処する」といだけです。でも誰が、メディアや、メディアであれ、これを発言する論客を「採点者」に任用したのか。有権者の仕事が「採点」することに尽くされるということでもよろしいのですか。
国民的な病
相手が次に打ってくる一手に最適対応すべく、全神経を集中すること、それを武道では「居着き」と言います。物理的には足の裏が地面に張り付いて見動きならない状態ですが、居着くには構造的に「負ける」ことです。居着いた相手は活殺自在である。そう言われています。政治家個々人の資質がどうこうということではありません。国家像が描けない。統治原理が示せない。外交戦略を提案できないというのは個別的な不調ではなくて、日本人全員が罷病している国民的な病です。
麻生首相の得意技
誰がボスが
公人は「推定有罪」
痛くも痒くもない「仮想の私」
政治思想の死滅
近視眼的、制度的、表層的
政治的危機の核心
わが国の政治にもっとも欠けているのは、この「自説の反対者と生産的対話をする」能力でしょう。そして、それこそが日本の政治的危機の核心をなしていると私は思います。
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