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2011年7月15日 (金)

戦中派の死生観 吉田 満 「谷間のなかの日系二世」 映画「八甲田山」

戦中派の死生観 吉田満

谷間のなかの日系二世  「世界週報」 1976年10月12日号 初出
 私はかねてから日系二世の問題に関心を持っている。なぜ興味を持ち始めたのかといえば、太平洋戦争中に
 日本軍に召集された二世の軍人が、両親の祖国であり、アメリカ生まれの自分には敵国である日本のために
 生粋の日本人以上に勇敢に戦うのを目撃したからである。また民族と国籍、ナショナリズムと世界平和、忠誠
 義務と民主主義といった複雑な現代社会の絡み合いのなかで、二世の戦争協力行為が、同じ在日二世の
 仲間やアメリカに残した家族から、どう評価されるかに疑問と期待を抱いたからである。
 ・・・・・・
 アメリカ的な考え方によれば、戦場にある兵士が卑怯に振る舞って職務を怠ることは、直ちに平和の愛好者
 であることを意味しない。N君が多くのハンディキャップを克服し、生命を賭けて最後まで職責の完遂にベスト
 を尽くしたのは、彼が軍国主義者であることを示すものではなく、二世が信頼するに足る人間であることのあか
 しでる立派な行為である、というのが称賛の理由であった。
 ・・・・・・・
 最近、日本人の海外進出はいよいよ活発化し、海を渡る日本企業、セールスマン、日本人家族は、新しい
 移民種族の大部隊を生み出しつつある。海外生活の長い子供たちの中には、早くも二つの国の谷間に落ち
 込んで、国籍を失いかけているものさえ現われている。民族、国籍の谷間を埋めるのは難事業であるが、その
 ことに成功した一つの極限の姿が、ほかならぬ日系二世の現実であることを忘れてはなるまい。
 ヒューマニズム、国境を越えた友情、寛容と理解、そんなきれい事では、世の荒廃は乗り切れない。
 厳しい目、冷静な判断、地道な努力の積み重ねだけが、道を開くであろう。

映画「八甲田山」 「桜桃」 22号・1977年夏 初出
 わたくしは正直のところ、映画の出来にはあまり関心しなかった。原作の重厚な力には、やはり及ばなかった
 わたくしは描写された津軽の自然のすばらしさに比べて、「無謀な雪中行軍と悲劇的な死」というテーマが、
 位負けしているように感じた。
 「二百人をこえる集団の死の彷徨」という異常な事実の意味を、ぜんぶ否定するのか、少しは肯定するのか
 肯定するとすれば、どの部分をどうのように肯定するか、がはっきりしないのである。
 ・・・・・・・
 その古い事件に三年の歳月と数億の制作費をかけて、大作映画に仕上げた真の意図は何かという疑問であり
 外国人が、この映画が日本の青年男女を熱狂させている事実をきかされて、何を感じるだろうかという不安で
 ある。

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