戦中派の死生観 吉田 満 同期の桜
戦中派の死生観 吉田 満
同期の桜 「文藝春秋デラックス」昭和53年4月号 初出
海軍時代の仲間が集まると、きまって会の最後に、腕を組み肩を波打たせながら歌う歌「同期の桜」。
そういう意味では、これはわれわれと同時代の海軍経験者に共通の愛唱歌であって、わたしだけに
特に特に思い出深い歌とはいえないかもしれない。
・・・・・・
しかしそれを「青春に思い出につながる愛唱歌」としてあえて選んだには、自分なりの理由がないわけ
ではない。昭和20年の春、戦艦大和の乗組員として沖縄特攻に出撃する前夜、ガンルームの若手士官
たちは、この歌を何度も高唱して飽きるところがなかった。「同期の桜」は正式の軍歌ではなく、いわゆる
軍歌風歌謡のたぐいであるが、訓練時代の重要な日課である軍歌演習によってすっかり馴染んでいた
多くの名軍歌よりも、耳でおぼえただkのこの一曲に方が、その時の気分にまさにピッタリなのであった。
見事散りましょ国のため
血肉わけたる仲ではないが
分かれ分かれに散ろうとも
花の梢に咲いて合おう
歌詞だけを取り出して書けば、どこかセンチで悲壮ぶって面映いほどであるが、声を合わせて歌っていると
青春の生き甲斐、友情、献身のいさぎよさといったようなものが自然に通いあうところが、この歌の独特の
魅力である。
そしてわれわれ戦中派世代は「貴様と俺とは・・・・」とくり返しながら、今そうしている自分が何か相すまぬ
ような自責の気持ちにかられるのである。
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